2009年11月 2日 (月)

おいしい話 料理小説傑作選/結城信孝 編

読みたくて買ってきたまま、文庫本ラックで猫たちの爪とぎにされてしまった未読本が数十冊ではきかないほどになってます。

文庫本とはいえ、本屋さんのカバーは破かれ、表紙カバーも破かれ、到底ブックオフなどには持って行かれない状態に。
もはやタダでも誰も欲しがらないでしょう……。
カバーをひん剥かれて、あら、こんな本もあったと再発見することもあったり。とっとと読みなさいよってことなんでしょうね。
猫に教わる毎日です。

蔵書コレクションとして持っていたい本は別として、文庫が大好きです。

10月の始めにはネット書店で在庫があったのですが、半ば頃には品切れ、重版未定になってしまったアンソロジーで、「おいしい話 料理小説傑作選」という黄色い表紙の本。
この文庫が気になって仕方がないのです。

食欲の秋だからって、にわかに売れ行きがよくなったわけではないのでしょうけど、絶版なのは軽くショック。

わたしの好きな作家の作品ばかりが収録されているので、読んでみたいと思っているうちに、探さないと見つからなくなってしまいました。
それだって、そんなに古い本ではないのに。

田中小実昌、金井美恵子、森瑤子などのほかにも、興味をそそられる作家の名前が表紙につらなっていたのでした。

おいしい話―料理小説傑作選 (徳間文庫) Book おいしい話―料理小説傑作選 (徳間文庫)

販売元:徳間書店
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Amazonに在庫が復活してました!

 

ちなみに、いま読んでいるのが、群ようこの「本取り虫」。
読書案内風エッセイです。
ツルタヒカリの解説にある、“本歌取りエッセイ”とはよく言ったものだと思います。
群ようこの読書エッセイは、作品の深いところまでついていて、おもしろおかしく読めるさばさばとした語り口なのが好きなんですよ。
必ずしも感性が合うかどうかは別としても、思いがけない本の紹介があったり、なにかと新しい発見があったりして。
“「本を読んで、目からうろこが落ちる楽しみ」を味わいたくて、わたしはページをめくっているのがわかったのである。”
「本取り虫」に書かれているのですが、まさしく同じ心境だと思ってしまいます。

 群ようこ/本取り虫 ちくま文庫 群ようこ/本取り虫 ちくま文庫
販売元:HMVジャパン
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2009年10月23日 (金)

作ってあげたい彼ごはんシリーズ/SHIORI

宝島社

 作ってあげたい彼ごはん テレビ・雑誌で大人気!フードコーディネーター・SHIORIの 5 作ってあげたい彼ごはん テレビ・雑誌で大人気!フードコーディネーター・SHIORIの 5
販売元:セブンアンドワイ
セブンアンドワイで詳細を確認する

 

食欲の秋、味覚の秋とはよく言ったもので、何を食べてもおいしく感じられる季節になりました。料理の腕を磨きたくなったり、レパートリーを増やしたくなったり、おうちごはんを楽しみたくなる今日この頃です。
いまや、ネットから生まれたレシピ本、ネットのレシピで人気となった料理愛好家が大活躍の時代。
『作ってあげたい彼ごはん』シリーズで定評のある著者・SHIORIさんも、当初はネットで人気を得たフードコーディネイター。

わたしはセブンアンドワイの特集を見て、彼女の略歴を知ったのでした。
SHIORIさんに聞くフードコーディネーターのお仕事 icon
こちらの特集では、特別に、簡単なおすすめレシピの紹介もあります。

食の仕事に携わっていると、お客さまに召し上がっていただくメニューは、いつでも自分の彼氏に食べてもらうつもりで作るのが基本なので、当然、オーダーを受けるたびに『彼ごはん』の感覚で作ります。『彼ごはん』のネーミングは、すべての料理に通じる「大切な人のために」という基本的な心得だと思うのです。

『作ってあげたい彼ごはん』シリーズ・5作目(’09年11月発行)の特集は、「3on3レシピ」。3つの材料と3つの調味料を揃えるだけで作れるという、簡単でおいしい料理の特集です。
4作目で特集となった人気の「10minutesレシピ」も健在、全120レシピが収録されています。テレビでも紹介しているようなトーストや焼きそば類のアレンジレシピもあり、料理初心者でも、いまどきスタイルの料理が楽しく作れる、ムック本シリーズになっています。

 作ってあげたい彼ごはん
 作ってあげたい彼ごはん   2
 作ってあげたい彼ごはん   3
 作ってあげたい彼ごはん   4

 

レシピ本は山ほど持っているのですが、自分の作りたい料理の傾向で選ぶのはもちろんで、そのほかには、その時々で輝いている著者や人柄でも選んだり、デザインのきれいさ、レシピの豊富さなども選ぶ基準になり、しかも手頃な価格だったりするとついつい増えてしまいます。スーパーで配布されている無料の料理冊子も、毎月毎月手に入るというのに。

『暮しの手帖』の発行者だった花森安治氏の言葉で料理記事の三大原則というのがあって、その直球ストライクが嬉しくなりました。

  • 材料が買いやすいもの
  • 作るのに手間暇のかからないもの
  • 食べておいしいもの

(森茉莉 贅沢貧乏暮らし/神野薫・著/阪急コミュニケーションズ・発行より抜粋・現在絶版)

月日が流れ、時代が変わろうとも、この三大原則、三条件が必須であるのは確かです。

 

 SHIORI’S おうちごはん SHIORI’S おうちごはん
販売元:セブンアンドワイ
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 SHIORIのかんたん♪LOVE弁当 SHIORIのかんたん♪LOVE弁当
販売元:セブンアンドワイ
セブンアンドワイで詳細を確認する

 

セブンアンドワイ・レシピ本フェア

ウチのごはんがいちばん!

 

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ここ数年、フードコーディネーターの資格に興味があります。

料理の腕や味と国家試験の免許や資格とはまったく別物なのですが、免許や資格はやはり気になるもので、どこで修行したかを気にするブランド志向のお客さまも多々いらっしゃいます。
そんなときには、笑ってテレビの料理番組に出演している(していた)著名な先生方の名前をあげたり、行きつけだった料理屋さんの名前をあげたりするわけなのですが、確かに免許や資格があれば仕事の幅が広がります。たとえ自分のお店で免許が必要な食材を提供するつもりはなくとも、もっと心に余裕が生まれるのではないかと思えるのです。

近頃では、調理師免許も実技試験がなくなり、規定の実務経験があれば比較的楽に取得できるようになったようですが、どうもこういう系統の免許というのは、お金で買うような気がして合点がいきません。
ここでいつも躊躇してしまうです。

一年、二年と調理師学校に通って受験するのなら、お金では買えない大切な出会いや人脈なども得ることができるかもしれませんが、実務経験のある者でも、単純に受験にかかる費用のほかに、受験前に受けなければならない講習会の費用も必要であり、合格のあかつきには、当然免許証の発行費用がまた必要となります。すべてセットで考えなければなりません。

調理師免許よりも難関であるフードコーディネーター試験にしても、バーテンダー試験にしても、ワインのソムリエ試験にしても然りなのです。
そのほか、焼酎アドバイザーや日本酒(利き酒)アドバイザーなど、数え上げたら実にさまざまな資格がありますが、どれもこれも同じような流れであるわけで、これってどうよと思わないわけにはいきません。

ですから、真っ当に免許や資格を持っている方々のことは、はなから尊敬してしまうのでした。夢や目標のためとはいえ、そういう試練に堪えた、乗り越えたということは、手離しで偉いと思ってしまうのです。だからといって、腕が悪ければ話は別ですけど。立派な免許所有者の作ってくれた外ごはんで、自分が作った方がよっぽどマシだと思ってしまう料理を口にしたときには、ほんと悲しくなりますから。

 

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2009年10月19日 (月)

エッフェル搭の黒猫/新井満

講談社 (’99年5月25日初版発行)

収録作品●――――――――――――――――――――●

オンフルールの少年(初出:’92年11月/マガジンハウス社)
エッフェル搭の黒猫(初出:’93年7月号/小説現代)
モンマルトルの薔薇と憂鬱(書き下ろし)

●―――――――――――――――――――――――――●

 

実在した黒猫の話ではなくて、作曲家(音楽家)『エリック・サティ』についての小説です。

1866年5月7日に生まれ、1925年7月1日水曜日、享年59歳で永眠したエリック・サティ。
フランス・ノルマンディー地方のオンフルールからパリのモンマルトルの丘へとやってきて、数々の芸術家たちと過ごした、12歳から28歳にかけての時期が壮大かつロマンティックなストーリーとして描かれています。20代の頃に作られた“ジムノペティ”“グノシエンヌ”“ヴェクサシオン”などが圧倒的な代表曲なのに、当時のことが書かれたものが極端に少ないことに着眼点を得た作品。感謝です。

環境ビデオを作る仕事に長年携わってきた著者・新井満が惚れ込んだサティの世界が黒猫になぞらえたイメージとともに、魅力たっぷりに伝わってきます。

サティの曲とは知らなくとも、メロディを聴けば、テレビドラマのバックやCMの中でも、誰しもが耳にしたことのある曲を作っていたのだとわかります。ネットで検索したならすぐにピアノ曲を聴くことができ、映画出演時の映像すら見ることができます。近頃、車のCMでも“ジムノペティ”のメロディが流れていてハッとしましたし、久本雅美の所属している「わはっは本舗」も詞をつけてネタにしたりしています。

クラシック曲とは思えない斬新で新鮮なメロディーは、飽くまでも単調なリズムを繰り返していきます。そして、聴いた人の中には長いこと余韻が続き、苦悩や哀切の息遣いが哲学的な響きでこだまして、やがて忘れられないフレーズとなってしまうのです。

本書が発行されたのは20世紀末で、サティの生きた時代は前述の19世紀末~20世紀にかけて。ちょうど、100年前頃のこと。1884年のフランス大革命百周年を記念するイベントとして、1889年におけるパリ万博の開催が計画され、時期をあわせてエッフェル搭が建設されていきます。そのあたりのバックグラウンドや人々の混沌とした夢や心浮き立つようすも興味深いところです。

文学酒場“黒猫亭”や“オーベルジュ・デュ・クルゥ(旅籠屋・釘亭)”でピアニストとして生計を立てていたサティは、ピアノのない自室で譜面を書き綴って作曲してしまうという天才ぶりで驚きました。音楽家ならば、わけのないことなのかもしれませんが。

実際にも前衛音楽家として数々の新しい試みを実行し、後世になって、さらにその素晴らしさを認識されたともいえるようです。

どこまでがノンフィクションでどこからがフィクションであるのか、改めてサティの築いた音楽史のページを紐解いてみたくなるものの、小説で描かれていたサティのイメージから離れてしまうことが少々怖くもあります。あまりかけ離れたサティ史や人物像でないことは確かなようですが。いずれにしても、埋もれた資料を探したりのぼうだいな研究作業になるには違いないでしょうから、それなりの覚悟が必要としても、そこまでの価値も魅力も充分にあります。

ともあれまずは、エリック・サティの入門書として、本書「エッフェル塔の黒猫」を味わってみるのがおすすめです。

しかし残念ですが、絶版となってしまいました。興味を持たれた方はぜひ探してみてください。

 

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“Oh!シンディ”
それにつけても、悔やまれるのは先週末のトノバン・加藤和彦の訃報でした。インディアンサマーの空の下、心はどんよりとしたままのここ数日です。生きたくとも生きられなかった清志郎もいたのに、トノバンも生きたくとも生きられなかったのだろうか。千の風になって、再び出会える日を願うしかありません。

 

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2009年10月12日 (月)

お笑い雑誌

通勤途中に本屋さんに立ち寄っていたのが日課だった頃と違って、取り急ぎ、ネットから必要な本の情報だけを仕入れていると、自分の探している本や作家関連の情報はいくらでも調べることができるけれど、旬の流れというのとは距離ができてしまいがち。それでも別段、生活に支障をきたすわけでもないし、新聞を取っていなくともテレビからの情報でほとんど間に合ってしまうように、本の情報もテレビやメルマガで送られてくるもので足りてしまうものなんです、一応は。ですが、なんだか落ち着かない気分なのは否めません。

新聞から得られる情報量と同じく、実際に街の本屋さんに足を運んだときほどの見晴らしのいい情報量には到底及びませんから。本屋さんに一歩足を踏み入れた途端、新着雑誌、新刊本、人気本、話題本がで~んと鎮座しているのです。いやでも目につきます。ぐるっとひと回りしてくれば、ジャンルに関係なく次から次と視覚からの情報が入ってくるし、ラッピングされたコミック本以外は手に取って品定めができる楽しみもありますし。

テレビ(爆問学問)で、爆笑問題の太田がまったく同じような話をしていたことがあって、
『いつも、ネットで本を買っているけれど、たまに本屋さんに行くと、ネットでのピンポイントな情報と違って、あれもこれも目について、嬉しくなっちゃって山ほど買い込んじゃう』
というような話で、まさしくその通りなのです。

ネット書店のトップページをマメに(といっても日に一、二度くらいのペースで)確認してみると、その日のトップセラーや新着情報、新しいフェアや特集について、それぞれの書店で力を入れようとしているものがわかります。が、よほど、気が向いたときか時間のあるときでもないと、そうそう毎日チェックするほどの興味も沸かなかったりします。

そんな生活でも、今月に入ってからは、比較的マメにあちこちのネット書店のトップページをまわっていて、そのときどきで興味をそそられたものについてご紹介したくなりました。タイムリーに更新できないとどんどん情報が古くなってしまいますが。

まだまだお笑いブームは続くようです。こういう雑誌が出ていることすら知りませんでした。

 お笑いポポロ 2009年11月号 お笑いポポロ 2009年11月号
販売元:セブンアンドワイ
セブンアンドワイで詳細を確認する
(10月7日発売/季刊雑誌)

‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥

マンスリーよしもとPLUS(2009年11月号) マンスリーよしもとPLUS(2009年11月号)
販売元:よしもとネットショップ Yahoo!店
よしもとネットショップ Yahoo!店で詳細を確認する
(10月1日発売/創刊第2号)

マンスリーよしもとPLUS(2009年10月号) マンスリーよしもとPLUS(2009年10月号)
販売元:よしもとネットショップ Yahoo!店
よしもとネットショップ Yahoo!店で詳細を確認する
(9月1日発売/新創刊号)

‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥

『マンスリーよしもとPLUS』も『お笑いポポロ』も、発売と同時にすごい売れ行きでびっくりしました。
しかも、『マンスリーよしもとPLUS 11月号』は、すでに在庫希少。
お笑い芸人といえども、ある意味、アイドルタレント並みの人気ですもんね。
西も東も、ガンガン切磋琢磨していって欲しいです。

「マンスリーよしもと」の2009年男前ランキングにて堂々1位【予約】【ポイント5倍 20%OFF】【2010芸人カレンダー】ライセンス 「マンスリーよしもと」の2009年男前ランキングにて堂々1位【予約】【ポイント5倍 20%OFF】【2010芸人カレンダー】ライセンス

販売元:zakka green
楽天市場で詳細を確認する

(10月1日発売)

しょっちゅうしょっちゅう放送曜日や放送時間帯の変わっていた『さんまのまんま』が、関東で日曜の午後1時からの放送枠になってくれたのがとっても嬉しかったりしています。昨日は、テレビ番組表を見てひとりで感激してました(o^-^o)

なのに、番組を見終わってから猫との遊びを放棄して昼寝をしてしまい、気づいたら『ちびまる子ちゃん』が始まっていたのにはショック。『笑点』を見はぐってしまった……。

 

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2009年10月 6日 (火)

猫の贈り物/リー・W・ラトリッジ 著/鷺沢萠 訳

DIARY OF A CAT

講談社文庫

 

鷺沢萠の翻訳で、猫作品!? という意外性に惹かれて読むことに。
てっきり、鷺沢萠は犬派だったとばかり思っていたので、犬派の彼女が訳した猫作品なのだから面白いに違いないということで。
黄色い背表紙にクリーム色の表紙、イラスト絵もいい感じです。

日記スタイルのエッセイなのかなと思いつつ、パラパラ拾い読みをしてみると、どうも小説のようです。
しかも、内容があっさりしていて面白そう。というか、変。

たとえば、

○月×日
寝た。

○月△日
寝た。

○月□日
今日は毛玉が3つ。

これは極端な例で、実際にはちゃんと日付も入っていてほぼ毎日の出来事がクールな視点でたんたんと綴られているのですが、原題なのかサブタイトルなのか“DIARY OF A CAT”の通り、猫の日記なのです。

猫と暮らす作者の猫日記のようでも、一人称は猫。
かと言って、猫が擬人化されているわけではなくて、猫は猫であって、初老の女性らしきミセス・ヴィジル(通称 ミセス・ヴィ)の飼い猫であり、牡の成猫であることがわかってきます。

退屈しのぎの悪戯の数々も日記として軽妙に綴られていきます。猫と暮らしたことのある人なら、ほんとにまったくお察ししますと飼い主に同情したくなる光景が浮かぶことも多く、初っ端でミセス・ヴィに、『このバカ猫……』と言わせてしまったりも。作中では、そんな下品な物言いは一回だけですが。かなり、おおらかで穏やかで品格の備わった人であるようです、ミセス・ヴィという方。もちろん、猫と暮らすことにおいて年季が違うことも確かでしょう。
『パンデモニウム(悪魔)、汝の名は猫』と、絶句してしまうしかないときなど、いかにも、と、ため息がこぼれ、同時に深い愛情を感じてホロリときてしまうのでした。

アメリカのとある田舎町との設定ですが、巻頭にあるご近所さんの地図や作品の印象によると、田舎町とは言っても、郊外ののどかな住宅街のようすがイメージされます。日本と違って、1軒ごとの土地や建物もずいぶんと広々としているのでしょうし。なんとなくおしゃれな雰囲気がする、静かで品のいい新興住宅地の20年後、30年後にも感じられます。

作中には、ご近所さんたちのようすやいくつかのトラブルも散りばめられているし、新たな同居猫たちまで現われて、おおむね愉しく読めるのですが、ある日、突然生活が一変する出来事がおこります。あげくにミステリー小説とおぼしき場面にも出くわし、意外な展開へ、思いがけない方向へと、見えないラストに向かって重苦しく運ばれていくのです。

訳者のあとがきに、はっきり言って、日記なのか小説なのかどういう作品だと言ったらいいのかよくわからない、みたいな仄めかしがあり、そのあたりも訳者・鷺沢萠の心をつかんだツボであるのかもしれません。訳者はもちろん、読者にも、奇妙な作品だったと読後感が残ります。ある意味では不思議な後味の作品なのでした。じんわりと温まるものを感じて、本書を翻訳してくれた訳者にも感謝の気持ちを覚えてきます。

常盤新平の解説に、鷺沢萠が書いた小説であるような作品だとあって、さもありなんと思えたりします。犬派の彼女は、この作品を通して猫にも心を動かされたとか。次回、生れてきたときには女性か男性かわからないけれど、彼女も猫と暮らすことになるかもしれませんね。

訳者の若い頃の作品に、『町へ出よ、キスをしよう』という18歳の文壇デビューから23歳までの5年間に書いたショートエッセイをまとめた元気な作品集がありますが、その中で、

“良い訳文というのは、『あたりまえの』文章である。あたりまえの平明な文章でありながら、どれだけ原文の意を損なわずにいられるかということが勝負になる”――終わりのない追いかけっこ より

“翻訳文学全般の評価を決定づける要因にもなることだが、とにかく日本語の文章が良い”
“「透けて」いない日本語の文章かどうか”――ウォーキング・エイジの文学『ペット・セマタリー』を読んで より

という話が載っていたのでした。本書は、このポイントも、さすがにみごとにクリアしている翻訳作品だと言えるでしょう。
『透けて』いる、『透けて』いないとは、翻訳した日本語の先にある『原文』の存在のこと。いかにもとってつけたような不自然な訳文ではだめという意味なのです。

その点については、学生時代にロシア語の教授からかなり厳しく日本語訳の勉強をさせられたそうで、『町へ出よ、』は、ほかにも鷺沢萠を知る上で素通りできない部分があり、貴重な作品だと思えます。

 

訳者が亡くなっているせいもあるのか、『猫の贈り物』は残念ながら現在絶版となってしまったため、図書館で文庫本を借りてきて読みました。ですが、本書はぜひ買ってからまた何回か読みたいと思える一冊。

 

’97年6月、講談社より刊行作品。

(文庫化/’01年8月15日初版発行)

 

猫の贈り物(講談社文庫/@古本市場)
猫の贈り物講談社文庫(ブックオフオンライン)

ハードカバー

【古本】町へ出よ、キスをしよう/鷺沢 萠 【古本】町へ出よ、キスをしよう/鷺沢 萠

販売元:ユーブック楽天市場店
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新潮文庫

【古本】町へ出よ、キスをしよう/鷺沢 萠 【古本】町へ出よ、キスをしよう/鷺沢 萠

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左から、(るい)4月7日生・萌っ子、(もん)4月15日生・スリー蘭ボーイズ

 

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